===============>>>>> JPEG GRAPHIC DATA DOCUMENT <<<<<===============

【タイトル】: ABFES03J(過ぎてしまった11の季節と語れなかった言葉たち)

【作  者】: AB

【I  D】: PC-VAN:GEE17146 NIFTY-SERVE:KHA00220

【転載条件】: CGフェス画像ですので、CGフェス終了後なら構いません。で

きたら事前に連絡を下さい。

--【コメント】---------



 どうも。

 CGフェスティバルも早いものでもう2回目ですね。春の小フェスを入れると

3回目になります。



 僕がNIFTYに来たのは、このCGフェスティバルがきっかけでした(それ

まではPC−VANにいました)。つまり、僕がNIFTYに来て通信を始めて、

ちょうど1年が過ぎたことになります。あっという間にも感じるし、色々あった

ようにも思います。



 まずパソコンが1台増えました。今までは98だったのですが、Macint

oshを買って、CG環境が16色からフルカラーになりました。

 CGに関しては、これが一番大きな出来事でした。マシンの表現力が増した分、

自分の表現力のなさや、アラがはっきり分かるようになりました。もっともはじ

めのうちはマシンの遅さに泣くばかりでしたが(IIviでしたから(笑))。

 深夜のRTCに顔を出たのも、OFF会に初めて参加したのも、この一年のう

ちの出来事でした。投稿した漫画が某雑誌の新人賞に入選したりもしました。



 去年の夏に買ったViはQUADRA840AVになり、スキャナも買って、

CG環境は通信を始めたばかりの頃に比べ、ずいぶん大がかりになりました。腕

の方があまり進歩していないのが悲しいところです(;_;。







 今回のCGは、僕がNIFTYに来てちょうど1年目という事もあり、とりあ

えず自分のベストといえるものを描こう、という事を念頭に描き始めました。

 手順をちょっと書いてみます。参考になるかは分かりませんが(^^;。



● まず、下書きに初めてペンを使います。つまり鉛筆で描いた下絵をペン入れ

して、それをスキャナで取り込んで原画にしました。





● 最終的なサイズよりかなり大きめに取り込み、 Painterで人物に軽く色を入

れたあと、 PhotoShop上から、各種のエフェクターを併用して道路と手前の建物

のテクスチャーをつくり、貼り込んでいきます。





● 次にPainterの水彩から、 粗めの質感の紙を選び、人物の衣服をあらかた仕

上げました。肌は、灰色のフラットな画面を切り取ったものをテクスチャーに使

って、紙質に影響されない、なめらかな水彩塗りを使いました。





● 一番苦労した魚の影です。

 輪郭がないものなので、ペン画の下書きの段階での作業ができず、ここまで仕

上げてからPhotoShopで同じ大きさのファイルをもう一枚つくり、 そこにあたり

を取りました。



PhotoShopの1ドット鉛筆で、 普通にデッサンするような感じでがりがり描き

込み、ぼかしてノイズをかけてフレスコ処理をして輪郭を抽出してブラシで灰色

をかけて全体を整えヒレを描き込みトーンを調整したものを、モノクロにしてア

ルファチャンネルに取り込み、別の画面につくったちらちらした色の影数種類と、

グラデーションをかけつつ合成し、それを元絵に重ねました。自分でいってても

なんだかよく分からないですが(笑)。



 何しろ1枚3〜6Mくらいのファイルを2〜5枚くらい同時に扱うので、メモ

リがいくらあっても足らず、HDに取ったテンポラリがパンクしたりして、意味

もなく作業は難航しました(;_;。



 それが済んで、ようやく全体の見通しがたったのですが、描き込みすぎたため、

最終的な画面サイズに縮小すると、せっかく描いた細部が全部つぶれてしまうこ

とに気付き、しばらく呆然としました(;_;。





● 気を取り直して、シャープや色調調整を使って、被害を最小にしつつ縮小し、

そのあとPainterの1ドット水彩ペンで細部を手描きで描き直し、PhotoShopで窓

の移り込みを描いてサインを入れて完成です。







 実質2日とちょっと、といったところでしょうか。フィルタ処理の待ち時間が

ほとんどだったんで、ずっとビデオで映画見てました(笑)。紅の豚とブレード

ランナーとエル・スールとカラスの飼育と刑事コロンボ。節操がないですね。



 最後になりますが、この1年で、僕のCG環境は大きく変化したわけですが、

やってることはあまり変わりません。結局必要なのは本人の描く意志じゃないか

と思います。

 この3日ばかり、1日10時間以上がりがり絵を描いていて、なんだか久しぶ

りに描く楽しさを満喫しました(^^)。はっきり言って仕上げてしまうのが惜しい

くらいでした。

 去年のドキュメントでも描きましたが、CGそのものは、通信ができる環境を

持っている人なら誰でも始めることのできる身近な趣味ではないかと思います。



 このCGを見て、CGに興味を持ってくれる人がいたら嬉しいです。



1994/09/30 AB(KHA00220)

=====================================================================

>>> END of ABFES03J.DOC <<<







































 本当は、ここに「過ぎてしまった11の季節と語れなかった言葉たち」という

物語を書くはずだったのですが、いろいろな事情(主に時間がなかった(;_;)に

より全文載せる余裕がなくなってしまいました。

 お話がないと、状況がなんだか分かりづらい、というほどのこともないと思う

のですが、この絵はこんなきっかけで生まれました、というのがあるといいかな

と思うので、冒頭の部分をいくつか抜粋しておきます。これだけで物語として成

立するたぐいのものではありませんが、興味のある方は読んでみてください。



--【おはなし】---------



     過ぎてしまった11の季節と語れなかった言葉たち













 魚の、夢を見る。

 その時、僕は古びた石造りの街にいた。

 風はほんのすこし冷たく、目に映るすべてのものが、まるで漂白したように色

褪せて見えた。見上げると、白土色の背の高い建物に切り取られた矩形の向こう

に、暗く、うつろな夜空が見えた。星は見えなかったが、少し緑がかった奇妙な

色の雲と、その雲の薄らぐあたりに、ぼんやりと丸い月が見えた。月は、死んだ

ばかりの老人の目のように赤かった。



 魚は、そんな白茶けた街の中を、まるで漂うみたいにに泳いでいった。波打つ

ようにして長い石段をのぼってゆく魚の影は、あいまいな月の光のせいで、まる

で水の中にいるみたいに滲んで見えた。



 ここはどこなのだろう。僕はなぜこんな場所にいるのだろう。何も思い出せな

かった。まるで自分の半身をどこかへ置き忘れてきてしまったみたいに、僕の記

憶は至るところで断ち切られていた。



           *           *



 目が覚めたとき、僕は行方不明になっていた。いや、僕、という言い方は正確

ではないかも知れない。僕は、かつて僕だった人間の影に過ぎないのだから。

 つまり、目覚めたときベッドの上に僕の姿はなく、僕のいるべき場所には、人

のかたちをした淡く暗い染みのようなものが大の字に横たわっていた、という事

だ。まるですすで汚れた透明人間みたいに。



 それが僕だった。



           *           *



 影である僕は、自分に関する記憶のいくつかを失っていた。

 あるいは、僕は自分に関する記憶のいくつかを、影である僕の意識の中に置き

忘れていった。

 どちらが正しいのかは分からない。どちらでもいいのかも知れない。

 とにかく僕は、自分の名前さえ思い出す事ができなかった。



 もちろん僕にだって名前はあったし、それを知ることはたやすかった。ここは

僕の家だし、表札の、両親の名前の脇を見れば、そこには僕の名前があった。財

布の学生証を見てもいいし、保険証を見たっていい。

 問題は、それらが自分の名前だという事実に、僕がうまく馴染めなかったとい

うことにある。それはまるで意味をなさない、無機質な活字の並びとしか僕には

感じられなかった。

 そんなわけで、僕には名前がない。ただの、影だ。



           *           *



 僕の身の回りのほとんどの人間が、影になった僕を見てひどく驚いた。

 当たり前だ。誰だって驚く。僕だって慣れるまでずいぶんかかった。

 当初の驚きが去ると、何人かの友人が、よってたかって僕の腕だの頭だのに触

った。傍目には厚みというものがまるで感じられないのだ。でも触ると実体があ

ることがちゃんと分かる。髪の毛も皮膚も爪も、ざらざらした紙のような感触が

する。

 それにしても自分の名前も思い出せないのに、家族や友人の名前はちゃんと覚

えている、というのが奇妙だった。不公平といってもいいかも知れない。



 誰も僕の行方を知らなかった。

「自分の名前も思い出せないんだって?俺のことは覚えてるよね」

「うん、もちろん」

「先週の日曜、麻雀したのは覚えてる?」

「そうだったかな」

「7千円も負けたんだぜ。俺が貸してるんだけど」

「だめだ。思い出せない」



 これは嘘だ。







 鳥飼さんについて話そう。

 彼女は影になった僕を見て驚かなかった唯一の人物である。



 彼女と初めて出会ったのは2年と少し前、僕がまだ19の夏だった。その頃僕

は、近所の文房具屋でアルバイトをしていた。いろいろな事情がからみあった結

果、僕は結局、大学への進学をなかば断念していた。



 彼女は13歳のとき、交通事故で両親と右腕をなくした。横転して外れたドア

に挟まれたのだ。だから、文房具屋のレジの前で僕が彼女を見たとき、彼女は左

手に大きな紙袋を下げ、長袖のトレーナーシャツの左の袖をまくり、右の袖を肘

のあたりで結んで歩いていた。

 それはまるで、右腕をちょっとどこかに置き忘れてきた、といった感じの何気

なさだったので、僕は彼女の右腕がないことにしばらく気付かなかいほどだった。



 それで僕はうっかりして、レシートと釣り銭を普通に差し出してしまった。

 彼女はいったん持ち上げかけた紙袋をもう一度おろし、釣り銭を確かめて受け

取り、紙袋を持ち上げて出ていった。一瞬の出来事だったが、流れの止まった一

瞬は何とも居心地が悪く、彼女が出ていったあと、背筋を冷や汗が伝い落ちた。



 僕はもうひとりのバイトにレジを任せて店を飛び出て彼女に詫びた。彼女は最

初、なんのことだか分からない、という顔をしていたが、僕が事情を話すとちょ

っとうなずいて見せ、そんなことをいちいち言いに来るというのは変わった人間

だ、といった。

 彼女はふと首を傾げて僕の顔を眺め、「額に傷があるね」といった。

 僕は額を押さえた。それは額のしわに隠れてもはや傷とも呼べないものだった

が、僕はそれが気になって、あまり髪をあげないようにしている。

「子供の頃、マンションの屋上で転んだんだ」と僕は言った。

「普段は義手をつけるんだけどね。ときどき痛むの。骨がのびるから。きっと、

私と私の傷は全然別なことを考えてるのね」

 結局僕は彼女の家の近くまで荷物を運んだ。その後も何度か彼女は店に来て、

そのたびに僕は彼女の家の近くまで荷物を運んだが、店は別に文句を言わなかっ

た。うちに来るときはいつも、義手をつけていなかったので、あるいはそのため

かも知れない。



 僕は影になったとき、その店をやめてしまった。



           *           *



 鳥飼さんのアパートを、ときどき訪れる。影になってから、僕はほんの少しだ

け彼女が理解できるようになった。僕は21歳になり、彼女は19歳になった。

はたちのとき、僕は大学生になった。彼女は学校へは行っていない。



 鳥飼さんは僕が影になった事について、あまり気にしていないようだった。

 僕は、僕が僕であった頃の習慣を守って、大学に行き、学生食堂のまずい昼食

を食べたり、どうでもいいような講義をぼんやりと聞いたりしていた。おおかた

の知り合いはあいかわらず知り合いのままだったが、僕が影になったことで、彼

らとの間にはうすい膜のようなものができていた。夏が過ぎ、秋が近づくにつれ、

僕の存在は少しずつ意味を失っていった。まるで影が薄くなるみたいに。



           *           *



 最後に、魚について。

 それを初めて見たのは、影になって1年ほどが過ぎた、残暑の続く9月のはじ

めの事だった。少しはやい夕食のあと、僕と鳥飼さんは腹ごなしに散歩に出かけ

た。

 僕は白いTシャツに漂白したジーンズ、かかとの潰れたデッキシューズという

あいも変わらぬいでたちに、鳥飼さんがどこかから引っぱり出してきた古い麦わ

ら帽子をかぶっていた。僕がそんなものはいらない、というと彼女は

「かぶった方がいいわよ。今日は月の光がなんだか変だから」といい、それを僕

の頭に無理矢理押し込んだ。

「大丈夫、遠くから見たら案山子みたいに見えるから」

 何が大丈夫なのかよく分からなかったが、商店街をぶらぶら歩き、酒屋の自販

機でビールを買って、近くの死んだマンションへ向かった。



 死んだマンション、というのは僕らが勝手に呼んでいる名前だ。マンション、

というほど大きな建物ではないが、どこかの貿易会社の社員寮だったのが、老朽

化のために使われなくなり取り壊されぬまま放置されているのだ。門は閉まって

いるが、近くの金網が破れていて簡単に入れる。

 中庭を抜けて、反対側の入り口の脇の階段に座って、ビールをちびちび飲んだ。

階段は、ゆるやかに下って門まで続いている。

 建物は、いやに白茶けて見えた。まるで漂白したみたいだ。

 空を見上げると、薄い雲の向こうに、ぼんやりと月が見えた。どことなく奇妙

な雲で、奇妙な月だった。

 雲は腐敗したような緑色に濁っていたし、月は死んだばかりの老人の目のよう

に赤かった。

 突然、なにかが僕の心を打った。

「どうしたの?」

「こんな空を、どこかで見たことがあるんだ。誰もいない古い街、白い建物に囲

まれて・・・」

「いつ、どこで」

「分からない・・・。ずっと昔・・・いや、ちがうあれは・・・」

「見て」、鳥飼さんが叫んだ。

 僕は目を細めて空を見上げた。



          *            *



 魚は、奇妙な夜空を背景にゆっくりと泳いでいった。魚の落とす巨大な影が、

僕らのすぐ脇を通り抜けていった。影は、まるで水の中にいるみたいに滲んでい

た。

 魚には眼が4つあった。それは魚の眼というよりは、人間の眼に似ていた。そ

の、アーモンドを横にしたような眼が、体の両側に、縦に2つずつ並んでいた。



 魚は何も見ていないようだった。あるいは何もかもを見ているようだった。そ

の向こうでは、満月がどろりとした赤い光を、雲の隙間から滲ませていた。それ

は固まりかけた血のように、空からしたたり落ちてくるのではないかと思われた。



 魚は、そんな濁った赤を跳ね返すかのように、その長く引き伸ばされたような

胴体を青白く輝かせていた。魚自体が光を発しているようにも見える。

 僕らは何も言わず、ただ、そんな光景を眺めていた。魚の影は、まるで水路を

下るみたいに、ゆっくりと階段を下りていった。



          *            *



「あれはあなたの言葉よ」

 不意に、鳥飼さんがそうつぶやいた。

 鳥飼さんは顔を伏せ、右腕を抱き抱えるようにして泣いていた。義手をつけて

いるせいで、彼女は普段より損なわれているように見えた。彼女の右腕がもうど

こにもないことを、僕は改めて意識した。

「僕の、言葉?」

「魚は言葉なの。語れなかった言葉たち。あなたは何かを語るべきだったのよ。

こんな風に、失われてしまう前に」

「分からないよ。どうすればよかったのかなんて」

 鳥飼さんはゆっくりと首を振り、それ以上何もしゃべらなかった。僕も黙って

いた。

 僕は、影になって自分が失ったものがなんであるかを思い出そうとした。だが

駄目だった。失われたものを思い出す事なんてできやしないのだ。



 『曲がって吹く風と閉ざされた心とななめにながれる涙は見知らぬ街へ運ばれ

る』



 そんな言葉が、僕の頭にふと浮かんだ。古いことわざのようにも、遠い国の唄

のようにも聞こえる。

 なぜそんな言葉を思い出したのか、僕には分からなかった。どこで聞いたのか

も思い出せない。



 彼女はうつむいていたが、もう泣いてはいなかった。抱えた膝に幽かに傾げた

首をのせて、階段の暗がりの向こうを見ていた。

 彼女も、かつて魚を見たことがあるのかもしれない、と僕は思った。

 魚は失われたものたちをめぐって泳いでゆくのだから。



          *            *



 月が傾き始める頃、僕らは立ち上がり、家路についた。

 記憶は割れた鏡のように、不確かな像だけを映しだす。

 語れなかった言葉。僕は何を言えばよかったのだろう。

 あるいは誰に。もういない誰かに向かって、僕は問う。

 魚の行く先にあるものを、僕は知らなければならない。



                              了