===============>>>>> JPEG GRAPHIC DATA DOCUMENT <<<<<===============
【タイトル】:ABFES06J(白雨)
【作  者】: AB
【I  D】: KHA00220(NIFTY) ab_@st.rim.or.jp(Internet)
【転載条件】: CGフェス終了後ならば可ですが、事前に必ず連絡をください。

--【おはなし】---------
 頭の中でわんわんと、羽虫の飛び交うような不快な音が鳴り続けている。
ゆっくりと眼を開ける。薄暗い部屋。牢獄のよう。いつからここにいるのか
思い出せない。頭が割れそうに痛む。だがそれは、まるで他人の痛みのようだ。
脳のどこかに欠陥があって、痛みという信号を感覚に変えることが出来ずにいる
ようだ。あるいは単に緊張のせいか。擦れるような羽音は、やがてささやく声に
変わる。

『殺せ、殺せ、殺せ』

 無意識に、唇の端をかすかに歪めて私は笑う。いわれるまでもなく、殺し続け
てきたし、殺し続けるだろう。それ以外の選択肢はひとつしかない。つまり、
死だ。

 手に持った弓のような武器の握りの部分をわずかにひねる。仕込まれた刀身が
のぞける。明かりのない部屋の中でも、その刃は淡く輝いて見える。まるで汚れ
を知らぬかのように。私は不安になる。
この刃を血で染め続けたこれまでの日々が、まるで人工的に刷り込まれた架空の
記憶のように思える。いつからここにいるのか思い出せない。何故ここにいるの
かも。

 刀身に映った顔が自分のものだと理解できず、一瞬とまどう。見覚えのない
顔。いや、これは自分だ、と自分に言い聞かせる。記憶が断片的によみがえる。
私は・・・何かの理由でクローン手術を受けた。そして・・・。
 はっと気付く。これはクローン体だ。これ。自分は。ランダムなゆらぎを
持って造られた膨大な数のクローンを互いに殺し合わせ、最後に生き残った最強
の一体。それが私だ。刀身に顔を近づける。立ちのぼる血と臓物の匂い。私の
血。私の腑。私は笑う。血の匂いは私の心を落ちつかせる。

 街で行われていた賭博のことを思い出した。狂気が生み出したとしか思えない
ような人工生物を戦わせ、その勝敗に金を賭ける。家族の誰かがその賭博で莫大
な借金をつくり、私は売られた。地下組織の人間に区外に連れ出され、脳に傷を
残す危険のある違法のクローン手術を受けさせられた。コロッセウムの見世物、
賭博の駒を造るために。命を自由に作り出せるこの世界では、私の命など、彼ら
が賭ける一枚の硬貨ほどの重みもないのだろう。

 オリジナルの記憶の残滓が、私の記憶を混乱させ、奇妙な形に歪ませてしまっ
ている。鏡と向き合うような殺し合いの日々が、まるで他人事のように遠く感じ
られる。私は頭を振った。鋭い痛み。狂おしい羽音の群。私はその感覚にしがみ
つく。これが私なのだ、と。
 
 名前が思い出せない。自分の、いや、オリジナルが呼ばれていたであろう名称
も、自分に振りあてられた3桁のナンバーも。だが、どちらももう必要のないもの
だ。名前は私の名ではないし、ナンバーで区別すべき自分は、全て殺した。私は
ゆっくりと刃をしまう。生きたい、と切実に思う。生きてさえいれば、復讐を果
たし、ここを出るチャンスもあるだろう。生きてさえいれば。

 頭の中の羽音があざけるようにささやく。殺さなければ待っているのは死だと。
 私は頷く。殺すべき自分が、あと一人いる。私がこの世界で真に生を得るため
には。
 この世界ではクローンには人権がないのだ。少なくともオリジナルが存在する
かぎり。
 

--【コメント】---------
 どうも。いきなりすんげー暗い話で申し訳ないです(^^;。
 白雨ってのは、頭の中に漠然とある長いお話の題名であり、同時に、そのうち
やろうかと思っていた、架空の格闘ゲームをでっち上げて、その攻略本をつくる、
という企画のタイトルでもあります(^^;。

 で、コロッセウムで戦わされてる女の子なら、フェスのお題に反しないかなーと
思って描いてみたんですが、説明ないと、これのどこが『スポーツと女の子』なん
だーって感じですね。どうもすんません(;_;。

 最初は格闘ゲームのポスターみたいに、出てくるキャラ全部描くつもりだったん
ですが、時間もなくて、ほんとは背景に何人か描くつもりで下絵もあるし色も塗っ
たんですが、手前の女の子描きあげてみたら、これ以上背景に何か入れるとかえっ
て煩雑になって良くないんで、現在の形になりました。動きがなくなっちゃったの
がちょっと残念です。

 例によって、テクスチャーは死ぬほど手間かかったんですが、300DPIで描いたん
で、縮小したら細部とんじゃってがっくりです(;_;。って毎度のことですが。


 今回のフェスはものすごく忙しくて、はたして参加できるのかなーって感じだっ
たんですが、他の仕事がしんどすぎて、逆にCGに逃避しちゃったりして、結局早
く上がりました(笑)。もちろんしわ寄せはあるんですが(;_;。

 今回のフェスもばーっと盛り上がってくれるといいですねー(^^)。
 それでは。
=====================================================================
>>> END of ABFES06J.DOC <<<